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オフフレーバーの基礎知識
目次
オフフレーバーとは
オフフレーバーとは、食品や飲料における「いつもと違う」におい、異臭のことを指します。これにより製品は本来の価値を損ないます。
オフフレーバーは食品業界の重要な課題です。会社や製品のブランドイメージの毀損につながり、信頼を失う恐れがあるためです。また、製品回収が必要となれば、経済的な損失も多く発生します。 オフフレーバーの原因は、食品自体の成分変化や腐敗に加え、梱包資材や保管環境からにおい物質が混入・着臭するという外部要因もあります。この複雑な問題に対処するためには、オフフレーバーの発生原因や原因物質を理解し、予防や対応方法を把握することが重要です。
オフフレーバーの事例と原因
オフフレーバーの事例
オフフレーバーの発生事例の一つとして、かび臭(2,4,6-トリクロロアニソール)による汚染があります。
例えば、1974年には鶏肉や鶏卵へのかび臭の汚染が発生し、その後もココアパウダー、ドライフルーツ、飲料水、コーヒー、ビール、日本酒などにもかび臭の汚染が報告されています。
そのほかにもワインのオフフレーバーは国際的な問題になっています。特に高値で取引されるヴィンテージワインでは、コルクに使用される防腐剤が原因でかび臭が発生することがあります。
オフフレーバーの原因
製造時における発生
食品製造時において、食品原料や製造ラインに起因してオフフレーバーが発生することがあります。
水は最も重要な食品原料です。水源である湖沼や河川、貯水池に放線菌や藻類が繁殖することで産出したにおい物質の2-メチルイソボルネオール(2-MIB)やジェオスミンによって水が汚染され、かび臭や墨汁臭、土臭などの異臭を感じることがあります。また給水機などのパッキング部分にこれらの菌が繁殖することで、におい物質が発生するケースもあります。
食品製造ラインにおいては、洗浄に使用される消毒液がオフフレーバーの原因となることもあります。消毒液自体のにおいや、消毒液と食材が反応して発生するにおいが、製品に混入するためです。これらはカルキ臭と呼ばれ、2,4-ジクロロフェノールや 2,6-ジクロロフェノールなどが原因物質と考えられています。
流通時における発生
食品流通時に発生するオフフレーバーの一例として、周囲の他の食品や備品からにおいが移ることがあります。
周囲にあるほかの食品のにおいは、包材を透過して食品に影響を与えることがあります。これはにおいの強さや性質、包材のバリアー性に依存します。また、包材の印刷で使用される溶剤が十分に乾燥していない場合、トルエンや酢酸エチルが製品に移ることがあります。
また、防虫剤であるパラジクロロベンゼンやナフタレンを使用した収納庫で保管されていた食品に、においが移ったケースも報告されています。
さらに、物資をフォークリフトで移送する際に使われる木製パレットが、かび臭を発生させることがあります。木製パレットに使う防腐剤の2,4,6-トリクロロフェノールがカビによって、非常に強力なにおい物質の2,4,6-トリクロロアニソール(2,4,6-TCA)に変換されるためです。2,4,6-TCAは木製パレット上で産出すると、パレットで運ばれる製品原料、製品、包材などのあらゆる物資を汚染します。
保蔵時における発生
食品保蔵時に発生するオフフレーバーは、微生物、食品内の酵素、酸素や光などの環境要因があげられます。
例えば、ビールが日光に長時間晒されると、日光臭と呼ばれるにおい物質が発生します。ビール中の苦味成分イソフムロンは3-メチル-2-ブテン-1-チオールに変換され、オフフレーバーが発生する可能性があります。
オフフレーバーの原因物質
オフフレーバーの原因となる物質は、クレゾール類やノネナール、2,4,6-トリクロロアニソールなど、さまざまな種類が報告されており、物質ごとに発生するにおいは異なります。
原因物質を突き止めることはオフフレーバー分析にとって重要であり、オフフレーバー発生後の対策や再発防止にとっても欠かせません。
主なオフフレーバーの原因物質
物質名称 | におい |
---|---|
クレゾール類 | 病院のにおい |
ノネナール | 加齢臭 |
2,4,6-トリクロロアニソール | かび臭 |
フェノール | 消毒臭 |
2,4,6-トリブロモアニソール | かび臭 |
ヘキサナール | 紙・段ボール様臭 |
ヘプタナール | 魚様臭 |
ベンズアルデヒド | アーモンド、杏子臭 |
2,6-ジクロロフェノール | 消毒臭 |
オフフレーバーの閾値
閾値とは人がにおいを感知できる最小濃度をいいます。オフフレーバーの閾値は非常に低く、ごく微量であってもにおいを感じます。
例えば、かび臭として知られる2,4,6-TCAの閾値は、数pptから数十ppt程度です。pptは1兆分の1の濃度を意味し、例えば、25m x 12m x 1mサイズの学校のプールに塩粒3個(約0.3㎎)を溶かした濃度と同じです。同様に、水のかび臭として知られる2-MBIも同程度の閾値です。ほかにも、ナフタレンの閾値は数ppbから数十ppb(ppbとは10億分の1の単位)、トルエンは数百ppbの閾値となっています。
参考として、ニンニクのにおいの閾値は数百ppm(ppmとは100万分の1の単位)程度であり、2,4,6-TCAの100万倍となります。
これらの閾値の低さが、オフフレーバーが極めて微量でも感知される理由となっています。
オフフレーバーの予防と発生後の対応
オフフレーバーの予防で重要なのは、オフフレーバーのにおいを正しく知覚し、消費者が口にする前に製造から流通、販売店までの間において発見することです。分析機器による検知には時間がかかりすぎるため、人の嗅覚を十分に活用することが重要です。そのため、特に食品衛生を担う品質管理部門の担当者には、オフフレーバーに対する経験や知識が必要になります。
また、万が一消費者に届いた後にオフフレーバーが発生してしまった場合、対象の製品ロットの出荷停止や回収など迅速な対応が求められます。発生日に至るまでの発生場所での作業内容の確認や、作業者への聞き取り調査に加え、現場に置いてあった機材や設備の収集、原因の調査も行う必要があります。
オフフレーバーキット
オフフレーバーキットは、においの学習・トレーニング用の臭質サンプルです。一般社団法人オフフレーバー研究会が企画立案し、林純薬工業が製造・販売しており、工場、流通、販売店、品質管理、検査など、さまざまな現場のご担当者様にご活用いただいています。オフフレーバーに対する感受性を向上させるとともに、においに関する経験を共有し、人材のトレーニングに役立てることができます。
オフフレーバーキットは、食品業界で一般的な薬品臭、腐敗臭・石油臭、防虫剤臭、かび臭、酸化臭、シンナー臭・溶剤臭、不快臭、消毒臭・塩素臭など10種類の臭質サンプルが含まれています。さらに、包材・製造資材由来のポリ臭や金属臭など9種類の臭質サンプルが含まれているオフフレーバーキットⅡもあります。
におい成分記憶フィルム (SOSフィルム)
におい成分記憶フィルム (SOSフィルム) は、各工程のにおい環境を記録(収着)します。サントリーホールディングス株式会社とTOPPAN株式会社が企画立案し、林純薬工業が製造・販売を行っています。
オフフレーバー問題が発生した場合、解決のためには、オフフレーバーの発生原因を早急に特定しなければなりません。
SOSフィルムを製品の原料、製造、物流・保管、販売店舗の各工程で使用することで、におい環境の変化をモニタリング・保管し、オフフレーバーが発生した工程や原因を特定し、迅速な対応を支援できる可能性があります。