官能評価標準試薬の開発で、酒類の香りの評価用語の標準化を図る
公益財団法人 日本醸造協会

公益財団法人日本醸造協会

公益社団法人 日本醸造協会さまは、酒類や発酵調味料などの醸造分野で技術支援と情報発信を担う公益団体です。

日本醸造協会さまは林純薬工業が製造・販売に携わっているオフフレーバーキットに注目され、当社のOEMサービスを導入いただきました。製造を当社に委託することで、酒造メーカーさまや蔵元さまへ安定供給を実現しておられます。

今回は、伝統的な酒造技術と最新の科学技術を融合させる醸造協会さまの取り組みについて、酒類総合研究所での研究に携わった後藤常務理事と、この試薬の製品化を担当した武藤技師にお話を伺いました。

常務理事 農学博士:後藤 奈美さま
課題
  • 清酒、焼酎、ワインにおける香りの表現の標準化
解決策
  • 林純薬工業のオフフレーバーキット応用による官能評価標準試薬の製造
  • 官能評価標準試薬の量産を林純薬工業に製造委託して供給体制を確立
効果
  • 香りの認識が統一され、表現の標準化に貢献
  • 清酒や焼酎等の蔵元での社員教育や品質管理の重要なツールとなった

主たる事業は醸造に欠かせない酵母の育種と供給

醸造協会の概要と事業内容についてお教えください。

後藤さま

当協会は清酒や焼酎、ワイン、発酵調味料(味噌、醤油など)に関連する研究や成果の普及を行っています。特に酵母の育種と供給は、協会の中核的な活動の一つです。酵母は酒類の品質を左右する重要な要素であるため、その育種や品質管理、蔵元への安定供給を行うことが業界全体を支える重要な役割だと考えています。

そのほか、酵母以外の醸造用資材の提供や各種分析も行っています。また専門誌『日本醸造協会誌』や書籍、セミナーを通じて、技術情報や最新の研究成果を発信しています。

醸造に関する研究を行っている機関には、国の酒類総合研究所、各都道府県の産業技術センターや工業技術センター、大学や大手メーカーなどが挙げられます。私たちは、研究成果を実際に活用していただけるよう、分かりやすく情報提供するとともに、開発された酵母を培養・製造し、利用可能な形で頒布するなどの橋渡しの役割を担っています。

官能評価標準試薬の必要性と課題

官能評価標準試薬の開発が必要とされた背景を教えてください。

後藤さま

果物や花等に例えられるさまざまな香りは、清酒、焼酎、ワインなどの酒類の大きな魅力の一つです。一方、酒類にはいろいろなオフフレーバーが生じることもあり、香りは酒類の品質を大きく左右します。ただし、香りは色や味よりも言葉で表現することが難しく、また実際の製品ではさまざまな香りが共存しているため、香りのとらえ方や表現の共通認識を持つことが難しい、といわれていました。そのため、各種の特徴的な香りを示す代表的な成分を集めた官能評価標準試薬の開発が望まれました。

例えば、熟成した清酒にはいろいろな香りが含まれているので、代表的な熟成香がどのような香りかを説明することは難しい場合が多くあります。しかし、官能評価標準試薬のソトロンを使って香りの特徴を説明し、次に熟成した清酒の香りをみてもらうとすぐに分かっていただけます。また、標準試薬を使って一度香りの特徴を覚えると、実際の製品にはその香りが少ししかない場合にもその香りを感知できるようになります。

林純薬工業へのOEM依頼と協力関係

官能評価標準試薬の開発・製造において、林純薬工業にOEMを依頼された理由を教えてください。

武藤さま

林純薬工業さんは、香りに関する試薬の製造やオフフレーバーキットの提供において豊富な実績をお持ちでした。
官能評価標準試薬の開発においては、濃度の調整、保存安定性の確保が重要な課題でした。林純薬工業さんは、これらの要件を高い水準で満たすことができるメーカーであり、当協会としても多大なる信頼を寄せていました。

具体的な協力内容としては、当協会は酒類総合研究所から報告された成分の標準濃度を基に製品の濃度を決定し、林純薬工業さんが製品設計と製造と、製造のスケジュール管理を担当する形となりました。この役割分担によって、より良い製品づくりにフィードバック出来ています。

OEMでの試薬製造プロセスについて、具体的に教えていただけますか。

武藤さま

まず、製造に必要な香り成分の濃度を決定しました。清酒、焼酎泡盛、ワインそれぞれの特性に合わせて、酒類総合研究所の研究成果を基に官能評価を通じて最適な濃度を設定していきます。試薬の希釈率により香りが強過ぎたり、ほとんど残らなかったりするため、最適な濃度設定には慎重を期しました。

次に、試薬の保存安定性を確保するため、香り成分のキャリア(溶媒や揮発性成分の支持体)の選定を行います。一部の成分は揮発性が高く、不安定なため、安定化を図るために試行錯誤を重ねました。このプロセスでは、林純薬工業さんからの技術的なサポートが非常に重要な役割を果たしました。
製造段階では、一貫した生産体制が整えられています。林純薬工業さんの工場では、香り成分の正確な計量、混合、充填、品質検査が行われています。各工程は厳格な基準のもとで管理され、高い品質と安定供給が実現されています。完成した製品はこの製造プロセスを経て出荷され、さまざまな醸造現場で使用されています。

OEM生産と供給体制について、特に工夫された点があれば教えてください。

武藤さま

まず、安定供給を実現するため、林純薬工業さんの工場で生産スケジュールを細かく調整いただきました。試薬の需要は季節によって変動するため、需要予測に基づいた計画的な生産を依頼しています。また、予備在庫を確保することで、突発的な需要にも柔軟に対応可能な体制を整備しています。

輸送時の品質保持にも特別な配慮を施しました。香り成分は温度や湿度の影響を受けやすいため、専用の梱包材や適切な保管環境を導入し、輸送中の品質劣化を最小限に抑えています。これにより、ユーザーに安心して使用いただける製品の提供が可能となりました。

官能評価標準試薬の特徴と用途

それぞれの官能評価標準試薬にはどのような特徴があるのでしょうか。

後藤さま

最初に開発されたものが清酒用の標準試薬で、清酒のベースとなる香り、吟醸酒のフルーティな香り、熟成した香りなどに加え、欠点となる香気成分の合計19種類が含まれており、酒類総合研究所で開発された清酒のフレーバーホイールの参照標準物質に対応しています。清酒の製造や流通・販売に関わる方のトレーニングにピッタリの内容です。

焼酎については、芋焼酎や泡盛など個別のフレーバーホイールは各産地で作られていたのですが、焼酎・泡盛全体を網羅するものが酒類総合研究所で作成されました。そのうち、特に重要な20種類がこの標準試薬に含まれています。

ワインについては、国内外の研究をもとに38種類の香気成分が選ばれています。点数が多いため、スタンダード18種類とプロフェッショナル20種類に分けての販売となりました。日本の代表的な赤ワイン用ブドウ、マスカット・ベーリーAの特徴香成分が含まれている点も日本ならでは、と言えます。

利用者からの反響と今後の展望

官能評価標準試薬を利用した方々からどのような声が寄せられていますか。

後藤さま

これらの香気成分はそれぞれ試薬として販売されていますが、多くの種類を集めようとするとかなりの金額になります。また、成分によっては非常に匂いが強く、試薬瓶を開けるだけで部屋中に匂い(場合によっては悪臭)が充満するようなものもありますから、それぞれ適切な濃度に調整された試薬がそろうのはありがたい、とお聞きしました。

また、ワインについては海外でいくつかキットが開発されているのですが、小瓶から匂いを嗅ぐだけのものだったり、ワインに添加する製品では香気成分の種類が少なかったりします。この官能評価標準試薬は、香気成分の種類が豊富で、試薬を専用の紙(におい紙)に付けて嗅ぐことも、水やワインに添加して匂いを嗅ぐこともできます。溶液を作る場合にも必要量だけ作ることができて、使いやすいとお聞きしています。

官能評価標準試薬を使うことで「香りの評価が明確になり、現場での議論がスムーズになった」という声をいただいています。

今後、官能評価標準試薬をどのように展開していきたいとお考えですか。

後藤さま

機器分析が発達しても、酒類や食品分野では最終的な評価は人による官能評価が欠かせません。官能評価の中でも香りの評価は難しい分野ですから、これらの官能評価標準試薬を評価者のトレーニングに役立てていただけることを期待しています。
製造関係者はもちろん、流通や販売の関係者にもご利用いただければ、と思います。

また近年、清酒や焼酎・泡盛の海外展開に力が入れられています。海外の酒類関係者に清酒や焼酎・泡盛の香りの特徴を説明する際にもご利用いただけるのではないでしょうか。

公益財団法人 日本醸造協会 公益財団法人 日本醸造協会

〒114-0023 東京都北区滝野川2-6-30

事業内容
清酒や焼酎、ワイン、発酵調味料(味噌、醤油など)に関連する研究や成果の普及、専門誌『日本醸造協会誌』の発行

Webサイト
https://www.jozo.or.jp/

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