緩衝液(バッファー)の調製方法

目次

緩衝液(バッファー)を調製する利点

緩衝液(バッファー)は、すでに調製済みの製品が多数販売されていますが、試薬を購入しご自身で調製することも可能です。
既製品とは違い、ご自身で調製することで、濃度やpHを細かく調整できる利点があります。また、必要量のみ調製することができ、比較的安価で抑えられます。

この特集では、緩衝液(バッファー)を調製する際のポイントや、代表的な緩衝液の調製方法を解説します。
当社では、緩衝液の原料として使える試薬を多数ご用意しておりますので、ぜひご活用ください。

緩衝液(バッファー)を調製する際のポイント

緩衝液(バッファー)をご自身で調製する際、濃度調製や、温度、保存方法など、気をつけなければならないポイントがあります。

なるべく低濃度で調製する

緩衝液(バッファー)の濃度が高くなれば、緩衝作用も高くなりますが、その分反応や測定への影響も大きくなります。
特に生化学的反応では、緩衝物質の酵素活性や基質、補酵素との反応など、活性・安定性に影響するため、pHを保てる最小濃度の緩衝液を使用することが推奨されています。

また、緩衝液を希釈すると、イオン強度の変化に伴いpHも変化します。一般的に、弱塩基を用いた緩衝液はpHが小さくなり、弱酸を用いた緩衝液はpHが大きくなります。 緩衝液は使用時に調製することを推奨していますが、ストックのために緩衝液を調製する際も、希釈して使用する場合には、最終濃度は目的のpHになるようにしてください。

実際に使用する温度で調製する

溶液の温度が上がると、緩衝作用を発揮する物質のpKaの値はわずかに小さくなり、緩衝液(バッファー)のpHに影響します(温度依存性)。特に、塩基性pHの緩衝液では、水のpKwにも影響されるため、pHの温度依存性が大きくなります。
pHの変化に敏感な実験を行う際は、実際に使用する温度を想定したpH調整が必要です。

溶液の温度とpHの関係(ほう酸緩衝液)

pH標準液と各温度のpH

温度(℃) pH値
フタル酸塩 中性リン酸塩 ほう酸塩
0 4.01 6.98 9.46
5 4.01 6.95 9.39
10 4.00 6.92 9.33
15 4.00 6.90 9.27
20 4.00 6.88 9.22
25 4.01 6.86 9.18
30 4.01 6.85 9.14
35 4.02 6.84 9.10
40 4.03 6.84 9.07

密封容器での保存

緩衝液(バッファー)は時間が経つにつれ、細菌・カビなどの微生物の発生や、沈殿が見られる場合があります。また、塩基性の緩衝液は、大気中の二酸化炭素を吸収するため、pHが酸性側に傾きます。

これらを防ぐためには、フィルター(2.0~0.45μm)でろ過した緩衝液を滅菌済みの密封容器に入れ、保存すると効果的です。
高圧滅菌(オートクレーブ、120℃で20分程度)してから保存すると、さらに微生物による汚染を防ぐことができるので、比較的長期間の保存が可能です。

緩衝液(バッファー)の調製方法

1. りん酸緩衝液

条件

  • pH:5.2~8.3
  • 調製量:~500mL

使用する原料

品名 品番 濃度 使用量
りん酸二水素ナトリウム二水和物 19003095 0.2mol/L 31.21g
りん酸水素二ナトリウム・12水 19003125 0.2mol/L 71.64g
超純水 44005979 - 2L

手順

  1. 「りん酸二水素ナトリウム二水和物」を超純水で1Lにメスアップ
  2. 「りん酸水素二ナトリウム・12水を超純水」を超純水で1Lにメスアップ
  3. 「りん酸二水素ナトリウム溶液(①)」約250mLをビーカーに入れ、「りん酸水素二ナトリウム溶液(②)」を加え、pHを調整
  4. 必要に応じてオートクレーブで滅菌

2. 1×PBS(-)(りん酸緩衝生理食塩水 Ca2+・Mg2+不含)

条件

  • pH:5.8~8.0
  • 調製量:1L

使用する原料

品名 品番 濃度 使用量
塩化ナトリウム 19001895 137mmol/L 8g
塩化カリウム 16003285 2.68mmol/L 0.2g
りん酸水素二ナトリウム 19003145 10mmol/L 1.44g
りん酸二水素カリウム 16004035 2mmol/L 0.24g
塩酸 08000805 - 少量
超純水 44005979 - 1L

手順

  1. 「塩化ナトリウム」「塩化カリウム」「りん酸水素二ナトリウム」「りん酸二水素カリウム」を800~900mL程度の超純水に溶解後、1Lにメスアップ
  2. ①に塩酸を加え、pHを調整
    ※発熱を防ぐため、塩酸を少量ずつ加えてpHを調整します
  3. 必要に応じてオートクレーブで滅菌

3. 0.5mol/L EDTA

条件

  • pH:8.0
  • 調製量:500mL

使用する原料

品名 品番 濃度 使用量
EDTA2Na・2H2O
(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物)
05000872 0.5mol/L 93.06g
水酸化ナトリウム 19002475 0.2mol/L 約10g
超純水 44013335 - 500mL

手順

  1. 「EDTA2Na・2H2O(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物)」を400mLの超純水に撹拌
  2. ①に水酸化ナトリウムを少しずつ加えながらpHを測定
  3. 完全に溶解したことを確認後、pH8.0に合わせ、超純水で500mLにメスアップ
  4. 必要に応じてオートクレーブで滅菌

4. 1M Tris-HCl(トリス塩酸緩衝液)

条件

  • pH:8.0
  • 調製量:500mL

使用する原料

品名 品番 濃度 使用量
Tris
(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)
20002485 1mol/L 60.55g
塩酸 08000805 0.2mol/L 少量
超純水 44013335 - 500mL

手順

  1. 「Tris(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)」を400mLの超純水に溶解
  2. ①に塩酸を加え、pHを調整
    ※発熱するため、冷めてからpHを調整
  3. 超純水で500mLにメスアップ
  4. 必要に応じてオートクレーブやフィルターで滅菌

5. TE(トリスEDTA緩衝液)

条件

  • 調製量:500mL

使用する原料

品名 品番 濃度 使用量
1M Tris-HCl
※調製方法は 4. 1M Tris-HCl をご確認ください
- 10mmol/L 5mL
0.5mol/L EDTA(pH8.0)
※調製方法は 3. 0.5mol/L EDTA をご確認ください
- 1mmol/L 1mL
超純水 44013335 - 494mL

手順

  1. 「1M Tris-HCl」と「0.5mol/L EDTA(pH8.0)」を混合し、超純水で500mLにメスアップ
  2. 必要に応じてオートクレーブやフィルターで滅菌

6. 50×TAE(トリス酢酸EDTA緩衝液)

条件

  • 調製量:1L

使用する原料

品名 品番 濃度 使用量
Tris
(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)
20002485 2mol/L 242g
酢酸 01000125 1mol/L 57.1mL
0.5mol/L EDTA(pH8.0)
※調製方法は 3. 0.5mol/L EDTA をご確認ください
- 50mmol/L 100mL
超純水 44005979 - 1L

手順

  1. 「Tris(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)」「酢酸」「0.5mol/L EDTA(pH8.0)」を超純水で溶解し、1Lにメスアップ
  2. 使用する際は、50倍に希釈

7. 10×TBE(トリスほう酸EDTA緩衝液)

条件

  • 調製量:1L

使用する原料

品名 品番 濃度 使用量
Tris
(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)
20002485 500mmol/L 60.55g
ほう酸 02001615 485mmol/L 30g
0.5mol/L EDTA(pH8.0)
※調製方法は 3. 0.5mol/L EDTA をご確認ください
- 20mmol/L 40mL
超純水 44005979 - 1L

手順

  1. 「Tris(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)」と「0.5mol/L EDTA(pH8.0)」を超純水で溶解
  2. ①にほう酸を溶解させ、超純水で1Lにメスアップ
    ※「0.5mol/L EDTA(pH8.0)」はアルカリへの溶解性が高いため、先にほう酸を加えてしまうとpHが下がり、溶けにくくなります
  3. 使用する際は、10倍に希釈

8. TBS(トリス緩衝生理食塩水)

条件

  • pH:7.5付近
  • 調製量:1L

使用する原料

品名 品番 濃度 使用量
塩化ナトリウム 19001895 0.14mol/L 8g
塩化カリウム 16003285 0.003mol/L 0.2g
Tris
(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)
20002485 0.02mol/L 3g
塩酸 08000805 - 少量
超純水 44005979 - 1L

手順

  1. 「塩化ナトリウム」「塩化カリウム」「Tris(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)」を800mL程度の超純水で溶解
  2. ①に塩酸を加え、pHを調整
  3. 超純水で1Lにメスアップ
  4. 必要に応じてオートクレーブで滅菌

Pointフェノールレッド溶液でpHの変化を目視できます

TBS(トリス緩衝生理食塩水)を細胞培養などpH変化に敏感な実験で使用する際には、pHの変化を目視で確認するための指示薬としてフェノールレッド溶液(塩基性で紫色、酸性で黄色)を加えることができます。

9. くえん酸ナトリウム緩衝液

条件

  • pH:7.0
  • 調製量:500~600ml

使用する原料

品名 品番 濃度 使用量
くえん酸三ナトリウム二水和物 19001975 1mol/L 147g
くえん酸(無水) 03006655 1mol/L 19.2g
超純水 44013335 - 600mL

手順

  1. 「くえん酸三ナトリウム二水和物」を500mLの超純水で溶解
  2. 「くえん酸(無水)」を100mLの超純水で溶解
  3. pHを測定しながら、「くえん酸三ナトリウム二水和物溶液(①)」に「くえん酸溶液(②)」を加え、pHを調整
  4. 必要に応じてオートクレーブで滅菌

10. 炭酸-重炭酸緩衝液(0.1mol/L)

条件

  • pH:10.0
  • 調製量:500mL

使用する原料

品名 品番 濃度 使用量
炭酸ナトリウム 19001825 0.1mol/L 10.6g
炭酸水素ナトリウム 19001535 0.1mol/L 8.4g
超純水 44005979 - 2L

手順

  1. 「炭酸ナトリウム」を約1Lの超純水で溶解
  2. 「炭酸水素ナトリウム」を約1Lの超純水で溶解
  3. 「炭酸ナトリウム溶液(①)」約300mLをビーカーに入れ、pHを測定しながら「炭酸水素ナトリウム溶液(②)」を加え、pHを調整
  4. 必要に応じてオートクレーブで滅菌

11. ほう酸ナトリウム緩衝液

条件

  • pH:10.0
  • 調製量:1L

使用する原料

品名 品番 濃度 使用量
四ほう酸ナトリウム十水和物 19001685 0.12mol/L 47.6g
水酸化ナトリウム 19002475 - 少量
超純水 44005979 - 1L

手順

  1. 「四ほう酸ナトリウム十水和物」を約900mLの超純水で溶解
  2. 「水酸化ナトリウム」を超純水で溶解して、0.1mol/L 水酸化ナトリウム溶液を調製
    ※調整済みの 0.1mol/L(N/10) 水酸化ナトリウム溶液 を使用することもできます
  3. 「四ほう酸ナトリウム十水和物溶液(①)」に「0.1mol/L 水酸化ナトリウム溶液(②)」を添加してpHを調整
  4. 超純水で1Lにメスアップ

12. 20×SSC

条件

  • pH:7.0
  • 調製量:1L

使用する原料

品名 品番 濃度 使用量
塩化ナトリウム 19001895 3mol/L 175.32g
くえん酸三ナトリウム二水和物 19001975 300mmol/L 88.23g
水酸化ナトリウム 19002475 - 少量
超純水 44005979 - 1L

手順

  1. 「塩化ナトリウム」「くえん酸三ナトリウム二水和物」を約800mLの超純水で溶解
  2. ①に水酸化ナトリウムを加え、pH7.0に調整
  3. 超純水で1Lにメスアップ
  4. 数日保存する場合は、オートクレーブで滅菌

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