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【人工液 評価方法事例】人工尿臭による消臭性試験
~消臭評価を目的に開発したリアルな尿臭に近い「人工尿臭」~
一般的に「尿のにおいといえばアンモニア」という先入観があります。
確かにアンモニアは、(一社)繊維評価技術協議会(SEK)の消臭性試験規格にも採用される代表的な臭気成分です。
しかし、実際に私たちが感じる尿のにおいは、アンモニアだけでは説明しきれない複雑な成分を含んでいます。
また、人から採取した尿臭は、個人差や体調による変動があるだけなく、衛生面での課題も伴うため、評価には使いづらい側面があります。このような問題を解決し、より正確かつ再現性の高い評価を可能にするために開発されたのが「人工尿臭」です。
本製品は、(地独)東京都立産業技術研究センターが尿臭に対する消臭効果の評価を目的に開発した試薬です。その特長は、人の尿臭を模擬した構成成分にあります。この試薬を用いることで、従来の評価方法では難しいとされる精度の高い消臭性試験が可能となりました。
林純薬工業は「人工尿臭」の試薬化及び製造を行い、2025年2月3日に販売を開始。消臭製品の性能評価や研究用途での活用を提案しています。
目次
「人工尿臭」の開発と特徴※
フェニル酢酸を主成分とした尿の模擬臭
「人工尿臭」は、はちみつのような甘いにおいにも例えられるフェニル酢酸を主成分に、尿臭に含まれる多様な成分を組み合わせて開発されました。この模擬臭は、実際の尿臭に非常に近いと評価されています。
複合臭成分の選定
開発過程で尿臭は単体の成分で表現するのは難しく、混合する成分と混合割合を評価する必要がありました。
尿・尿臭に関する文献調査から、22成分を尿臭候補成分とし、試薬として購入可能な17成分の臭気をそれぞれ嗅いで、イメージする尿臭に近い成分を5成分選定しました。
その5成分から複合臭を調製し、官能試験を実施しました。
「放置して乾いた尿臭」を尿臭のイメージとし、人工尿臭の成分・組成を確立しました。
※引用:第37回におい・かおり環境学会要旨集(2024)「模擬尿臭の作成-新たな消臭性試験法への展開を目指して-」
従来の消臭性試験と臭気成分
消臭性試験とは、消臭性能を付与した素材や製品の効果を客観的に評価するために行われます。この試験では、機器分析(GC法) SEK基準やISO 17299-3といった国際的な認証基準が活用されます。
一般社団法人繊維評価技術協議会では、繊維製品について実施される消臭加工のマーク認証(SEKマーク)を行っていて、下記のようにそれぞれ臭気成分の基準があります。
カテゴリー | 臭気成分 |
---|---|
汗臭 | アンモニア、酢酸、イソ吉草酸 |
加齢臭 | アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナール |
排泄臭 | アンモニア、酢酸、メチルメルカブタン、硫化水素、インドール |
タバコ臭 | アンモニア、酢酸、アセトアルデヒド、ピリジン、硫化水素 |
生ごみ臭 | アンモニア、メチルメルカブタン、硫化水素、トリメチルアミン |
アンモニア臭 | アンモニア |
しかし、尿臭に対する試験はアンモニア臭の単独成分のみが評価対象とされてきました。このため、実際の尿臭に含まれる複雑な成分を十分に反映した試験が難しいという課題がありました。
林純薬工業より製造販売を行う「人工尿臭」は、複数の成分にてリアルな尿臭を再現することで、尿のにおいに対する消臭試験として評価の妥当性を担保することができます。
<人工尿臭の成分>
- フェニル酢酸
- p-クレゾール
- 4’-アミノアセトフェノン
(溶媒)ジプロピレングリコール
詳細はSDSをご参照ください
製品詳細ページへ
消臭加工された下着/トイレ消臭剤の評価方法事例のご紹介
評価協力:(地独)東京都立産業技術研究センター
尿のにおいの消臭試験を実施する対象製品には、さまざまな分野があります。
対象分野
- 紙おむつ、パッドライナー
- トイレ用芳香、消臭剤
- 介護用肌着、下着
- 空調、脱臭装置
- その他消臭試験
今回は、その中で消臭加工された下着とトイレ消臭剤の消臭試験を行った結果をご紹介いたします。
評価の目的
尿臭に対する消臭効果をガスクロマトグラフ法にて、定量的に評価する。
評価に必要なもの
- 分析装置 GCMS-QP2010 Plus(株式会社島津製作所)
- 加熱脱着装置 TD-20(株式会社島津製作所)
- カラム InertCap Pure-WAX(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
(ジーエルサイエンス株式会社) - におい袋(近江オドエアサービス製)2L×3個
- マイクロシリンジ(容量:50μL)
- Tenax TA(ジーエルサイエンス株式会社)3個
- 人工尿臭(消臭試験用)(林純薬工業製)
- アセトン(クロマトグラフ用)
- 各種サンプル(市販品)


評価手順
- ①人工尿臭をアセトンで2倍希釈する
-
②試験品(A:10×10cm×2枚※1、B:約100g※2)におい袋に入れる
ブランク用に何も入れていないにおい袋も用意する
A:10×10cm×2枚 B:約100g -
③それぞれのにおい袋に無臭空気1.0Lを充填する
-
④①で調製した溶液10μLを袋内に注入する(注意点:試験品に溶液が付着しないように)
-
⑤2時間40℃下※3静置し、Tenax TAに採取する
(採取量)フェニル酢酸:0.5L、p-クレゾール:0.1L - ⑥TD-GC/MS(加熱脱着-ガスクロマトグラフ/質量分析装置)にて、⑤のガス成分を分析する
-
⑦ブランクと試験品のピーク面積値から、減少率を算出する
減少率の計算方法減少率(%)=空試験のピーク面積値 - 試験品のピーク面積値空試験のピーク面積値×100
※1 「SEK基準/ISO 17299-3」⇒ 容量500ml、試料サイズ50cm2(1成分)
本試験 ⇒ 空気の容量が1L、測定成分が2成分なので、試料サイズはSEK基準を参考に10×10cm×2枚とした。
※2 少量タイプ品を想定
※3 夏場の環境温度として40℃に設定
装置条件
-
使用機器
加熱脱着装置 TD-20(株式会社島津製作所製)
ガスクロマトグラフ質量分析計 GCMS-QP2010 Plus(株式会社島津製作所)
カラム InertCap Pure-WAX(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm) -
測定条件
オーブン 40℃(0min)- 20℃/min - 260℃(5min)
スプリット 1:5(フェニル酢酸)
1:20(p-クレゾール)
※今回の分析対象の臭気成分は、フェニル酢酸とp-クレゾールとした - 測定モード Scan
評価結果
実際の尿のにおいに近い「人工尿臭」を使って、TD-GC/MSによる消臭試験の結果は下記のとおり。
消臭加工された下着、トイレ用消臭ビーズともに高い消臭効果があることが確認できました。
人工尿臭(ブランク)のクロマトグラム(TIC)


A)消臭加工された下着


フェニル酢酸 | p-クレゾール | |||
---|---|---|---|---|
ピーク面積値 (×106) |
減少率 (%) |
ピーク面積値 (×106) |
減少率 (%) |
|
空試験 | 6.68 | 76 | 33.2 | 74 |
消臭加工された下着 | 1.59 | 8.68 |
B)トイレ用消臭ビーズ


フェニル酢酸 | p-クレゾール | |||
---|---|---|---|---|
ピーク面積値 (×106) |
減少率 (%) |
ピーク面積値 (×106) |
減少率 (%) |
|
空試験 | 6.02 | 89 | 38.2 | 76 |
トイレ用消臭ビーズ | 0.632 | 9.04 |
参考:官能試験について
繊維評価技術協議会では、官能試験について試験後のフラスコ内の臭気と試験片の着臭を判定臭気(臭気強度2.0相当)と比較し、6名中5名以上のパネルがフラスコ内の臭気と試験片の着臭の両方とも、判定臭気強度と同等か同等以下であると判定されることが必要※4とされており、下記に「人工尿臭」を用いる場合の濃度調製方法をご紹介します。
臭気強度3.5の濃度調製法
臭気成分 | 人工尿臭 |
---|---|
溶媒 | エタノール |
原臭溶液作成 |
①エタノールに本製品1mLを溶かし、メスアップして10mLにする。 ②①の溶液から0.2mLの溶液をエタノールに溶かし、メスアップして100mLにする。 |
500ml三角フラスコへの注入量 | エタノール液5μl(マイクロピペット) |
臭気強度2.0の濃度調製法
臭気成分 | 臭気強度3.5の人工尿臭 |
---|---|
溶媒 | エタノール |
希釈率 | 1/30 |
500ml三角フラスコへの注入量 | エタノール液 5μL(マイクロピペット) |
林純薬工業の人工液シリーズ
林純薬工業では、人工尿臭をはじめ各種JIS規格に基づいた多彩な人工液のラインアップをご用意しています。
今回、ご紹介した試験方法以外のお客さま独自の試験法に適した組成や濃度、規格のご相談も業界・分野問わず承っております。
製品や試験法についてご質問、詳細のご説明をご希望の場合はお気軽にお問い合わせください。